先駆的な市民権擁護団体

全米ろう連盟(National Association of the Deaf、NAD)は、アメリカで最も権威あるろう者および難聴者のための市民権擁護団体です。145年以上にわたり、多様なコミュニティの民権・人権・言語権を守り促進することを主な目標としてきました。同種の団体としては国内最古であり、ろう文化と言語である手話が攻撃されていた時代に設立されました。それ以来、平等な権利のために闘う強力な組織へと成長しています。アメリカ手話(ASL)の保護から、裁判所や病院、オンライン空間でのろう者への利用しやすさ確保に至るまで、NADの歩みは絶え間ない進展を示しています。本記事では、数百万人の生活を変えてきたこの組織の歴史、大きな成果、現在の活動をご紹介します。
運動の始まり
19世紀後半は、世界中のろう者コミュニティにとって危険な時代でした。オーディズム(聴覚や話す能力を優位とみなす考え方)が広がり、手話はすべての場所で脅かされていました。この動きの最悪の象徴が、1880年にイタリア・ミラノで開催された国際ろう者教育会議でした。主に聴者で構成されたグループが、学校での手話を禁止する規則を採択し、話すことのみによる厳格なオーラリズム(口話法)を推進しました。この決定は世界中のろう者コミュニティに衝撃を与え、言語・文化・アイデンティティへの直接的な攻撃でした。
この脅威に抗するため、その年同じくシンシナティ(オハイオ州)でろう者のリーダーたちが集まりました。1880年8月25日、全米ろう連盟(NAD)が設立され、ロバート・P・マクレガーが初代会長に選ばれました。組織の最初で最も重要な目標は、アメリカのろう者が自分たちの言語を使う権利を守ることでした。ASLなしでは、教育やコミュニティへのアクセス、自己決定が困難になることを理解していました。後にNADの会長を務めたジョージ・ヴェディッツは、組織の使命を定義したこのビジョンを次のように説明しています。
「地上にろう者がいる限り、私たちには手話があります。そして、私たちに映像がある限り、その手話を古の純粋さで保存することができます。美しい私たちの手話を、神がろう者に授けた最も高貴な贈り物として皆で愛し、大切に守っていくことを願っています。」
大きな勝利と変化
NADの歴史には抵抗だけでなく、実際に生活を変える勝利が刻まれています。裁判、立法者との協働、一般市民への啓発を通じて、障壁を取り除き基本的な権利を確立してきました。その成果は法令の一覧だけでなく、ろう者の日常生活の重要な変化として見ることができます。
言語権のための闘い
NADの最初で長期にわたる戦いはアメリカ手話(ASL)の保護です。ASLが完全な言語として認められる前は、単なるジェスチャーと軽視されていました。ジョージ・ヴェディッツの指導のもと1913年に開始された画期的な「手話保存」フィルムプロジェクトは革命的でした。ろう児童が話し言葉の使用を強制されていた時代、この映像は熟練の手話通訳者を記録し、貴重な記録を残しました。このプロジェクトは単なる言語の保存にとどまらず、言語と文化の価値を大胆に宣言し、後の学校や公共の場でのASL承認の基盤となりました。
障壁の打破
アメリカ障害者法(ADA)制定のずっと前から、NADは基本的な利用しやすさの確保に取り組んでいました。重要な節目となったのは1973年のリハビリテーション法、特に第504節です。この主要な市民権法は、連邦資金を受けるプログラムにおける障害を理由とした差別を禁止しました。NADは真の利用しやすさとは効果的なコミュニケーションの提供であると主張して支援しました。第504節は、コミュニケーションへのアクセスを拒否することが差別であることを法的に確立し、大学や政府機関など連邦資金を受ける施設で通訳や支援を要求できる法的基盤となりました。
平等への大きな一歩
1990年のアメリカ障害者法(ADA)の成立におけるNADの役割は非常に重要でした。NADは議会へのロビー活動の中心的な存在であり、専門的な証言を行い、コミュニティを結集しました。ADAは第504節の原則をほぼすべての公共生活領域に拡大し、ろう者の生活を革命的に変えました。
その影響を理解するために、病院に行くことを考えてみてください。ADA以前は、ろう者が病院に入ると忙しい看護師と素早くメモのやりとりをするか、手術用マスクをしている医師の口元を読み取るしかなく、危険で不公平な状況でした。ADA成立後、第三章(公共施設)は効果的なコミュニケーションの権利を保障しました。すなわち、病院は依頼があれば資格を持つ手話通訳者を提供することが法的義務となり、診断や治療、同意について明確で直接的なコミュニケーションが可能になりました。同様に第二章(公共サービス)は裁判所や運転免許局など州・地方政府の場面でも同様の利用しやすさを保障しました。
コミュニケーションの現代化
技術の変化とともにNADの活動も進化しました。1990年のテレビ用デコーダー回路法の成立に中心的役割を果たし、新しいテレビにはクローズドキャプション(字幕)機能の内蔵が義務付けられました。これにより、テレビはろう者がアクセスできなかった情報源から、数百万人が利用できる情報・娯楽の場になりました。

20年後、通信がインターネットへと移行する中、NADは2010年の21世紀コミュニケーション・ビデオアクセシビリティ法(CVAA)を支持しました。この法律はスマートフォンのウェブブラウザ、ビデオ会議、インターネットを用いた動画配信など最新の通信技術の利用しやすさを義務付けています。CVAAにより、ろう者は携帯電話でのビデオリレーサービス(VRS)利用や字幕付きのオンラインコンテンツアクセスを通じてデジタル世界に参加できます。
現在のNAD:現代的な擁護活動
21世紀に入っても、NADの活動は依然として重要です。活動は現代の技術主導の世界がもたらす複雑な課題に対応するよう拡大しています。現在の擁護活動は、平等のための継続的な闘いの重要な側面を表すいくつかの中核的分野に基づいています。
法的・政策的擁護
NADの法律チームは差別と闘う最前線です。重要な裁判で訴訟を起こし、法廷における「友人意見書」を提出しています。
* 現在の優先事項には就労差別の撤廃、司法制度における効果的なコミュニケーションの確保、通訳の不提供に責任を負わせることが含まれます。
* ADAやCVAAなどの法律で確立された権利の保護・拡大のため、連邦法令や政策を積極的に監視しています。
教育と若者のエンパワーメント
NADは「子ども第一(Child First)」のアプローチを推進し、すべてのろう者・難聴児が生まれた時から言語とコミュニケーションへのアクセス権を持つとしています。
* バイリンガル教育を支持し、ASLと英語双方を重視するプログラムを促進して認知発達や学業達成を支援しています。
* 学齢期の学生向けプログラム「ジュニア全米ろう連盟(Jr. NAD)」や2年ごとのNADユースリーダーシップキャンプなどを通じて次世代のろうリーダーを育成しています。
技術と利用しやすさ
技術の急速な進歩に対応し、NADはアクセシビリティを後付けではなく組み込みとして確保する取り組みを推進しています。
* 多くの手話利用者が電話で使う主な手段であるビデオリレーサービス(VRS)の高品質基準を求めて擁護しています。
* ネット中立性(Net Neutrality)を強く支持し、公平で開かれたインターネットはろうコミュニティがVRSやデータ量の多いサービスにアクセスするために不可欠だと主張しています。
* 自動音声認識(ASR)の品質にも大きな関心を持ち、正確さの基準設定を推進。これにより自動字幕が単なる形式的な対応ではなく、実際の利用を可能にするものになるよう働きかけています。
医療アクセス
NADはすべての医療現場での完全なコミュニケーションアクセス獲得を引き続き推進しています。これは救急外来だけでなく、精神医療など詳細なコミュニケーションが効果的な治療と支援に不可欠な分野も含みます。組織は患者と医療提供者双方に向けた資源を提供し、より良い成果を目指しています。
ASLとろう文化
NADは核心として、ろう文化の強力な擁護者であり続けています。各州の立法府でASLの正式認定を推進し、メディアやエンターテインメント産業と協力してろう者キャラクターや物語の本物の描写を奨励。固定観念を超えてろう者の生活の豊かさを示す活動を展開しています。
21世紀を切り拓く
未来を見据え、NADは前例のない技術変化と高まる社会意識の中で活動しています。その使命は、20世紀の基本的な闘いを超えた複雑な課題に対応することにあります。
技術の二面性
技術は大きな可能性と同時に重大なリスクももたらします。人工知能は自動音声認識(ASR)などのツールを支える一方で、NADはその問題点を強く認識しています。不正確で未編集のASR字幕は、「十分に見える」アクセスの錯覚を生み出し、教育、雇用、市民参加に必要な完全な理解を提供できません。NADの今後の活動は、基準設定や人間による監督システムの推進という重要な役割に関わり、技術的「解決策」が単なる技術的適合ではなく真の平等を実現するよう訴えていきます。
インターセクショナリティと多様性
NADはろう者コミュニティの多様な全体像にますます注力しています。個々のろう者の経験は複数のアイデンティティによって形作られることを認識し、有色人種のろう者、ろう移民、ろうLGBTQ+の方々、ろうで障害を持つ方々が直面する独自の障壁に対処するための的確な擁護活動を展開しています。これらの声を生かす場を作り、コミュニティ内部外部の制度的偏見に取り組むことで、メンバーの現実を反映したより包括的で公正な運動をつくりあげています。
未来のろう者労働力
2025年現在、ろう者労働力の擁護は単に採用差別の防止にとどまりません。NADはキャリア全体に注目しています。遠隔勤務プラットフォームやオンライン会議ソフトが単なる最低限の対応ではなく完全に利用しやすいことを確保し、不十分な形式で提供されがちなキャリアアップや専門能力開発の機会の平等を求める活動です。単に仕事に就くだけでなく、本当に平等な環境で持続可能で充実したキャリアを築くことを目指しています。
NADの活動体制
全米ろう者協会(NAD)は会員によって支えられる草の根組織です。全国的なビジョンと地域ごとの行動を結びつける構造で、国内各地に強力な擁護者のネットワークを築いています。
擁護者のネットワーク
- 会員制度:NADは非営利組織であり、ろう者・聞こえる人の個人会員だけでなく、ミッションに賛同する地方、州、全国の関連団体も加盟しています。
- 州協会:NADの重要な構成要素である加盟州協会は、地域の法律やニーズに応じた擁護活動を展開し、教育や行政サービスなどの課題に取り組んでいます。
- 全国大会:2年ごとに開催される全国大会では、数千人の会員やリーダー、支援者が集まり、政策優先事項の設定、ワークショップ開催、コミュニティの絆を強化する重要な場となっています。
- 理事会:コミュニティの一般会員によって選出されたろう者や難聴者で構成される理事会が組織を統括し、戦略的な監督を行い、NADのミッションとコミュニティへの責任を維持しています。
不朽の遺産
ミラノ会議への反発として始まった全米ろう者協会は、強力かつ洗練された市民権運動のリーダーに成長しました。約1世紀半もの間、米国手話の豊かな言語遺産を守ると同時に、不断の進歩の原動力となっています。その遺産は法律に刻まれ、技術に組み込まれ、教育、医療、公的生活へのより平等なアクセスを可能にした数百万の人々の日常に息づいています。しかし、道半ばです。社会と技術が進化し続ける中で、NADの監視者かつ積極的な擁護者としての役割は、ろう者と難聴者が障壁なく活躍できる未来への歩みを支える上で不可欠です。